2016/02/04

人物紹介(6)政権交代で日台交流は新時代、日本語普及で力に 山本幸男氏

「台湾の政権交代で、日本と台湾の交流は新たな段階に入るのではないか」。台湾日本人会と台北市日本工商会で2008年から2014年末まで6年間総幹事を務めた山本幸男氏はそんな思いを強めている。5月に新たに総統に就任する民主進歩党主席の蔡英文氏は日米との関係を重視。環太平洋経済連携協定(TPP)への参加も積極的に検討しており、日本との絆が一段と深まるとの期待が高まっている。山本氏は総幹事を退いた後も、日本の漢字能力検定協会がアジア主要都市で実施している「BJTビジネス日本語テスト」の台湾での普及促進という新たな活動を通じて交流の力になるつもりだ。

 山本氏は三井物産出身。1970年代後半に北京に企業派遣で語学留学し、その後も長く主に中国関連ビジネスを手がけた。2008年から日本人会と工商会の総幹事に就任。台湾政府に対し対日関連の政策提言を行う「対台湾政府政策建言」(白書)の作成・提出を始めるなど工商会の機能強化に取り組んだ。2014年末に総幹事を退き、現在はBJTテストセンターである丸虎国際顧問有限公司の顧問を務める。

 日台交流の転換点になったのは2011年の東日本大震災だったという。台湾から200億円を超える義捐金が被災地に寄せられ、多くの日本人が台湾人の日本への思いの強さを知るきっかけとなった。同年10月には「NHKのど自慢in台湾」が収録・放送された。のど自慢はもともと台湾で高い人気を誇り、誘致に向け現地で署名活動が展開されてきていた。表向きは国交がない複雑な日台関係のなかで実現が遅れていたが、震災で台湾との絆が社会的に認知されたことが実現を後押しした。日本人会と工商会は震災の際には現地で1億円の義捐金を集めた、NHKのど自慢や宝塚歌劇団開催の実務にも参画。山本氏は「ビジネスでの結びつきが強くても、多くの日本人は台湾のことをあまり知らなかった。ただ震災で局面が変わり、さらに今回の政権交代で一段と絆を深められる好機を迎えている」と話す。

 山本氏は現在、「BJTビジネス日本語テスト」の台湾での普及に力を注いでいる。このテストは元々経産省(ジェトロ)のプロジェクトだったが、民主党政権下の「仕分け」で国の手を離れ日本漢字能力検定協会が手がけるようになった。一般的な日本語能力試験と異なるのは実際のビジネスで日本語を運用する力を測定することに力点を置いている点だ。文法や語彙に対する知識があるのは前提として、それを場面に適した形で応用し、円滑にコミュニケーションを取れるかを評価する。テストは800点満点で、TOEICのように難易度に応じて得点を調整し、評価の客観性を担保する。台湾ではアジアの他都市より遅れて2013年から台北、台中、高雄の3カ所で年2回実施、ジェトロ、交流協会、工商会、亜東関係協会も積極的に応援している。

 台湾では英語の学習が最重要視されているが、歴史的背景から日本語の学習熱は他のアジアの国々に比べても突出して高い。最高峰の台湾大学を始め日本語学科を設けている大学も多い。ただ、最近では韓国のポップカルチャーの人気を受けて韓国語を学ぶ学生が増えるなど多言語化してきており、日本語を学ぶ重要性と魅力を改めて訴える重要性が増しているという。また、現地でハイレベルな日本語の使い手を増やせれば、日本とのビジネスの一段の活性化にもつながる。2020年東京オリンピックに向けての日本語熱は益々高まると期待している。

 2014年末に総幹事としての6年間の日々を終えた後も台湾に残ったのは、「2016年初の台湾総統選挙を見届けたい」と思ったからだという。しかし新たなミッションを背負った今、帰国のめどはもう暫くは立ちそうにない。台湾進出を検討する企業を始め日台の民間交流関連の相談も途絶えることがない。台湾側からも信頼が厚く、立場は変わったが、台湾との交流を支える日々はまだ続きそうだ。

コメントを投稿