2015/11/16

人物紹介(2)KDDI台湾の田中社長 手塩にかけて育てたのに…避けて通れぬ「ジョブホップ」問題

 「もっと現地のクライアントを開拓できないか」。2012年春、田中慎史氏はこんな思いを持ってKDDI台湾に会長兼社長として赴任した。当時は顧客の多くが日本企業の現地法人。日本から送客されるため台湾独自での新規開拓はそれほど重要視されてこなかった。勢い社員は技術系がほとんどだったが、赴任直前に初めて営業担当を採用しており、営業強化は田中氏にとって格好のチャレンジだった。

 「何か困っていることはありませんか?」「特にありません」「ありがとうございました」。客先でこんなやり取りをして戻ってくる新人に、自らつきっきりで営業のイロハを教えた。台湾で初めての現地採用の営業社員。一人前に育て上げれば今後に向けた突破口になる。オフィスで日本人は2人しかおらず、組織運営でもキーマンになってくれるかもしれない。期待を一身に受けて育てられたその新人は、ようやく一人前になったタイミングで転職を申し出た。
この時ばかりは田中氏は「がっかりした」と振り返る。

 台湾で事業展開する日本企業の幹部は誰もが「ジョブホップに苦労している」と口をそろえる。台湾人は中国人などに比べれば控えめで、日本人にとって近しく感じることが多いだろう。ただし実は向上心と独立志向が強く、待遇の良い職場を求めて転職する「ジョブホップ」が一般化しているのが実態だ。日本企業がノウハウを手厚く教え込んだ有能な人材であれば当然引く手あまたになり、転職のリスクが高まる寸法だ。

 田中氏は個人的に中国語を勉強して直接コミュニケーションすることで距離を縮めようとしている。オフィスの風通しが良くなるようにとパーテーションを撤去しようとした所、不評だったため取りやめた。どうすれば長期的な人材育成ができるか、「試行錯誤しながら前進している」という。
 
 転職をいとわない台湾人。ただ社員旅行や職場での付き合いを大切にする側面もあり、この点では日本の新入社員よりも親しみが湧きやすいかもしれない。待遇や成長に向けた機会提供はもちろんだが、距離を縮めて良好な人間関係を築くことも有効といえるだろう。

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